最高裁 平成17年3月10日(判例タイムズ1179号185頁)
【事案】
○賃借人の要望に沿って大型スーパーストアの店鋪として使用するために建築され他の用途に転用することが困難である建物について、賃貸借契約において3年ごとに賃料を増額する旨特約。
○原審:
・本件建物は賃借人の注文に従って建築された大型スーパーストア用の建物であり転用の困難性を伴うこと、本件賃貸借契約は、このような本件建物を賃借人のスーパーストア経営事業のための利用に供し、これにより賃借人が事業による収益を得るとともに、賃貸人も将来にわたり安定した賃料収入を得るという共同事業の一環として締結されたものというべきであることなどから、本件賃貸借契約は借地借家法が想定している賃貸借契約の形態とは大きく趣を異にする。
・このような賃貸借契約において賃借人から賃料減額請求がされた場合に、一般的な賃料相場や不動産価格の下落をそのまま取り入れ、これに連動して賃料減額を認めるのは著しく合理性を欠くことになり不当。
・借地借家法に基づく賃料減額請求権の行使が認められるかどうかについては、上記のような契約の特殊性を踏まえた上で、当該賃料の額について賃借人の経営状態に照らして当初の合意を維持することが著しく合理性を欠く状態となり、合意賃料を維持することが当該賃貸借契約の趣旨、目的に照らして公平を失し、信義に反するというような特段の事情があるかどうかによって判断するのが相当。
○賃借人、上告。
【判旨】
・本件賃貸借契約について賃料減額請求の当否を判断するに当たっては、諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、賃借人の経営状態など特定の要素を基にした上で、当初の合意賃料を維持することが公平を失し信義に反するというような特段の事情があるか否かをみるなどの独自の基準を設けて、これを判断することは許されないものというべきであり、原審の判断は誤り。
・借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、同項所定の諸事情(租税等の負担の増減、土地建物価格の変動その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料相場)のほか、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべき。