最判平成25年6月6日 明示的一部請求と時効中断

【事案の概要】
本件は、亡Aの遺言執行者である上告人が、被上告人に対し、亡Aが死亡時に有していた未収金債権(以下「本件未収金債権」という。)の支払を求める事案である。上告人は、既に、本件未収金債権の一部を請求する訴えを提起し、この請求を全部認容する旨の確定判決を得ており、本件訴訟は、その残部を請求するもの。
【争点】
上記の一部請求に係る訴えの提起が残部についても消滅時効の中断の効力を生ずるか否かが争われている。
【判旨】
1 明示的一部請求の訴えの提起は、債権の一部消滅の抗弁に理由があると判断されたため債権の総額が認定されたとしても、残部について裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない
2 明示的一部請求の訴えの提起は、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、残部について裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずる
3 催告から6箇月以内に再び催告をしても、第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は、消滅時効が完成し、この理は、第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異ならない
【コメント】
当初本件未収金の総額は約4億円であり、その一方、債務者は反対債権を有していることが明らかであったことから、当初の印紙代の負担を軽くする意図で一部請求(5000万円余り)をしたものと思われます。結局裁判で認められた金額は7500万円余りであり、本件訴訟は差額2000万円余りを請求し、棄却されたもの。遺言執行者として善管注意義務違反として損害賠償請求される虞があります。
印紙代の節約のために一部請求することはありますが、消滅時効との関係では要注意です。

【参照条文】

民法第百五十三条  催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事事件手続法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。